【インタビュー】瀬戸内サーカスファクトリー ディレクター・田中未知子さん
2026年07月24日
8月15日、瀬戸内サーカスファクトリー『Workers ワーカーズ!』が文化芸術センターの大ホールにやってきます。
日本初の現代サーカス専門カンパニーによる、大工の技とアクロバットを融合させた注目の舞台。
公演を前に、瀬戸内サーカスファクトリー アーティスティックディレクター・代表理事の田中未知子さんにお話を伺いました。

—2025年に全国ツアーが行われ、大きな反響を呼んだ『Workers ワーカーズ!』ですが、どのような作品なのでしょうか。
まず「現代サーカス」というジャンル自体、日本ではまだあまり馴染みがないと思います。サーカスのアクロバティックな技巧を見せることにとどまらず、身体表現を軸に、演劇やダンス、美術などさまざまな要素を取り入れながら、新しいかたちでサーカスを表現する舞台芸術です。
『Workers ワーカーズ!』も、出演する6人全員がプロのサーカスアーティストですが、それぞれの専門種目にとらわれず、身体と木材の力を活かした表現に挑戦しています。一般的なサーカスでは鉄や金属製の器具を使うことが多いですが、本作では舞台上の道具をすべて木で製作しました。
作品のコンセプトは、「大工さんの仕事をサーカスにする」こと。拠点である香川県で山一木材株式会社の皆さんと出会い、熟練の職人さんの技術力や、日本ならではの木の文化を作品として伝えたいと思ったことが始まりです。舞台では、釘やネジを使わずに木材を組み上げ、高さ約4メートルの構造物を築いていきます。重く、扱いの難しい木製の道具を自在に操れるのは、職人の確かな技術と、アーティストたちの日々の鍛錬があってこそ。その二つが重なり合うことで、ものづくりの過程とパフォーマンスとを同時に見せるという他に類を見ない舞台が生まれています。

—瀬戸内サーカスファクトリー初の劇場用作品という点でも注目されています。見どころを教えてください。
これまで私たちは、場所の特性を活かした屋外でのサイトスペシフィック作品1を多く手掛けてきましたが、『Workers ワーカーズ!』は劇場で上演することを前提に創作した初めての作品です。そのため、アクロバティックなパフォーマンスだけでなく、照明効果など劇場ならではの演出を取り入れ、登場人物の関係性や内面まで描こうとしています。
1 サイトスペシフィック(site-specific):アート作品などが、特定の場所で、その特性を活かして制作されること。
アーティストたちは単に技を披露するのではなく、大工さんという人物を演じる演者でもあります。例えば、谷口界さんが演じるシルホイールの場面。通常は金属製の器具ですが、本作ではほぼ同じ大きさと重さの木のシルホイールを特別に製作しました。木製でこの精度のものを作るのは非常に難しく、海外でも実現できなかったという話を聞くほどです。金属製と違って滑りやすいので、普段とは違う動きになりますが、それを活かして人物の心の中のイメージを表現したりしています。

そこへエアリアルアーティスト・吉田亜希さんが加わり、二人の大工さんが交錯する印象的なシーンが生まれます。対立というほどではありませんが、互いの葛藤や心の揺れを感じさせる場面で、「この人はどんな人物なのだろう」と想像しながら観ていただけたらうれしいですね。
吉田さん自身も、ロープを取り付けた角材を垂直に立てて、その面を歩くように演じる非常に高度な技を披露します。通常のエアリアルとは異なる身体操作が必要で、トップレベルの技術があってこそ実現できる表現です。
さらに、今回初めて参加するサゴーさんは、木だけで作られたローラーボーラーに挑戦しています。普段使われる金属や樹脂製の器具とは素材がまったく異なり、見た目は積み木のように素朴でかわいらしい一方、難易度は格段に高くなります。サゴーさんはSNSに練習動画を投稿するたび、世界中のサーカスアーティストが反応するほど注目されているアーティストでもあるので、その唯一無二のパフォーマンスにもぜひ注目していただきたいです。


—田中さんご自身は、現代サーカスのどんなところに惹かれたのでしょうか。
私が初めて現代サーカスと出会ったのは、新聞社で働いていた頃、フランスのサーカスチームを日本に迎える仕事に携わったときでした。舞台を見るよりも先に心を奪われたのは、アーティストたちのまっすぐで温かなまなざしと、その佇まいでした。まっすぐな視線、身体ひとつで生きているような力強さに、それまでにない大きな衝撃を受けたことを今でも鮮明に覚えています。気さくに話していた人が、次の瞬間には命綱もなく驚くような技を披露する。その日常と非日常が行き来する感覚に、夢を見ているようなワクワク感を覚えたんです。
当時の日本では、現代サーカスに触れる機会はほとんどありませんでした。だからこそ、その魅力を日本でも体験できる場をつくりたいと思ったんです。世界の他のどこにもない、日本の文化や風土、日本の人たちから生まれる現代サーカスをつくりたくて、ずっと追及してきています。作品づくりは決して簡単ではありませんが、アーティストやスタッフが力を合わせ、一つの舞台を創り上げる時間は何ものにも代えがたいです。その一体感や充実感こそ、この活動を続けている原動力と言えますね。
—活動を続けるうえで、拠点・香川県の地域産業との連携も大きな特徴ですね。
香川県は日本で最も面積の小さい県ですが、その分「こんなことをやってみたい」というアイデアや思いさえあれば、地域の企業と直接つながり、新しい企画を立ち上げられる土壌があります。もちろん最初から順調だったわけではありませんが、一つの企業とのご縁が次の出会いにつながり、山一さんをはじめ、石材や鉄鋼などさまざまな分野の企業と協働できるようになりました。
作品制作の場所を提供していただいたり、スポンサーとして支えていただいたりと、多くの方々に応援していただけるのは、この地域だからこそだと感じています。また、香川には伝統芸能や祭りの文化が今も息づいていて、新しい表現に対しても「面白そうだからやってみよう」と受け入れてくれる空気があります。そんな地域性も、私たちの創作を後押ししてくれる大切な力になっています。
—作品づくりだけでなく、サーカス教室などの活動にも力を入れておられます。
サーカスは観るだけの芸術ではなく、実際に体験して、その楽しさを分かち合うものだと考えています。海外では子どもから大人まで多くの人がサーカス教室に参加し、楽しみながら身体を動かしています。そうした環境があるからこそ、地域にサーカス文化が根づき、アーティストへの憧れやリスペクトも自然と育まれていく。そのような環境を日本でも実現したいという思いから、私たちも活動を続けています。
子どもたちには、日常の中で身体を動かす楽しさを知ってほしい。そして近年は、教育や福祉などの分野でサーカスを活用する“ソーシャルサーカス”にも取り組み、引きこもりの方や高齢者を対象とした活動も行ってきました。サーカスには、人と人をつなぎ、社会のさまざまな課題に寄り添う力があります。
まずは一度体験してみてほしいですね。実際にやってみると、皆さん本当に楽しそうな表情になるんです。そして、「またやりたい」という気持ちが生まれ、「アーティストってすごいんだ」と感じてもらえる。その積み重ねが、サーカス文化を育てていくのだと思っています。
—来場されるお客さまに伝えたいこと、感じてほしいことを、子どもたちと大人の方、それぞれに向けてお話しください。
子どもたちには、まず「人の身体ってこんなことができるんだ!」という驚きや発見を、生の舞台で感じてほしいと思います。サーカスをもっと身近なものとして受け止め、身体を動かすことや表現することの楽しさにつながればうれしいですね。
大人の方には、無垢の木材が持つ力強さや美しさを通して、私たちが昔から大切してきた木の文化の価値を改めて感じてほしいと思います。そして、舞台で躍動するアーティストたちの姿から、人間性や生きざま、さらには現代サーカスという芸術の可能性にも思いを巡らせながら味わっていただければと思います。

2026年8月15日(土)開催
瀬戸内サーカスファクトリー「Workers ワーカーズ!」
イベント詳細ページhttps://www.toyonaka-hall.jp/event/event-49097/