【インタビュー】7月25日開催〈交差するロマン〉輝きと陰影 出演・出口大地さん

【インタビュー】7月25日開催〈交差するロマン〉輝きと陰影 出演・出口大地さん

2026年07月25日

2026年度より、日本センチュリー交響楽団と豊中市立文化芸術センターがお贈りするオーケストラ公演の新シリーズ
「とよなかシンフォニックシリーズ」が、7月25日(土)開催の「〈交差するロマン〉輝きと陰影」よりスタート。
当日配布のプログラムにも掲載した指揮者・出口大地さんのインタビューの完全版を、本ページで掲載します。

2021年ハチャトゥリアン国際コンクール指揮部門で日本人初優勝を果たし、国内外で活躍を続ける、豊中市出身の指揮者・出口大地さん。
今回のプログラムの魅力、日本センチュリー交響楽団やチェリスト辻本玲さんの印象、音楽との出会い、そして豊中での思い出など、たっぷりとお話を伺いました。

撮影 飯島 隆

—今回のプログラムの魅力についてお聞かせください。

 今回取り上げる2曲はただ同時期に作曲された名曲というだけではなく、それぞれ晩年にあたる時期に書かれた代表作、いわば名作曲家たちの作曲家人生の集大成ともいえる2曲です。両作曲家の個性が豊かに熟し、音楽技法的にも最高地点に到達した、まさに「傑作」を堪能いただけるのではと思います。

—今回のプログラムの中で、特に注目してほしいポイントを教えてください。

 ドヴォルザークの作品は、古今東西のチェロ協奏曲の中でも最も有名かつ完成された作品と知られています。しかしそれだけの完成度にも関わらず第3楽章のコーダ(終結部)だけ不自然に長く、初めてこの作品を知ったときはそこに強い違和感がありました。しかし実はこの作品の作曲中に、若き日に想いを寄せていた女性の危篤と死に直面し、その彼女との思い出の歌曲を引用してコーダを大幅に拡大していたのです。完璧な構成を崩してまで彼女に捧げた音楽は、どこまでも美しく、どこまでも天国的です。

 チャイコフスキーの『悲愴』は、本人が人生を描いた交響曲とも呼んだ自叙伝的作品です。衝動と憧憬の第1楽章、上流社会の生活を描いた第2楽章、闘いの末名声を勝ち取る第3楽章に続く終楽章は、異例のアダージョ楽章。最後は死を暗示する銅鑼の響きからトロンボーンのコラールが聞こえ……。最後に消えゆくコントラバスのEの音は、第1楽章冒頭にまた繋がっていく。まさに人生は繰り返す。私はこの作品と太宰治の『人間失格』がオーバーラップします。あたかも自分がその(ときには破滅的な)人生を追体験したかのような没入感を与えてくれる作品だからです。

—ロマン派音楽の魅力、またドヴォルザークやチャイコフスキーについて、指揮者としてどのように感じておられますか。

 ロマン派の音楽は、それまでの古典派の論理的な調和や均整をベースに、より感情や感覚に直接訴えかける音世界となっていきました。聴き手にとっては共感のしやすさにも繋がり、より聴きやすい音楽とも言えます。一方演奏者としては、名俳優が役に入りきっているように見せかけて、すべてを緻密に計算して演技するように、自身はその音楽に溺れすぎず、聴き手を溺れさせる名演技が求められる難しさと楽しみを感じています。

 ドヴォルザークとチャイコフスキーはどちらも同時代に活躍した稀代のメロディーメーカーですが、その音楽には彼らのパーソナリティ(人柄)が色濃く反映されているように思います。

 ドヴォルザークはとても素朴で優しい人だったのではないでしょうか。その音楽は哀愁と温もりに満ちています。チェコの音楽、チェコの芸術とはなにかというものを強く意識し、向き合った作曲家ですが、この音楽の特徴はドヴォルザークのみならずチェコ人の気質とも言えるかもしれません。

 一方チャイコフスキーは人生で何度も鬱になってしまうほど繊細でメランコリック。彼の旋律は下降音型がとても多い。下降音型というのは気持ちが沈んでいくような印象を与え、ため息や嘆きも連想されます。今回の演奏でも下降音型に注目して聴いてみるのも面白いかもしれません。

—今回共演される辻本玲さんについて、どのような印象をお持ちでしょうか。

 以前私がアシスタントをしていた指揮者がNHK交響楽団と共演した際、その指揮者が最初のリハーサルを終え楽屋に戻るや否や、開口一番私に聞いたのが「あのチェロの首席は誰だ?あんな世界レベルのチェリストがオケにいるなんて、見たことがない!」それが辻本玲さんでした。僭越ながら、力強くも美しい音色で、常に真摯かつ確固たる音楽を奏でる素晴らしいチェリストと思っています。私自身、ソリストとしての辻本さんと共演するのは今回初めてですが、とても楽しみです。

—日本センチュリー交響楽団とは度々共演されています。改めて、印象についてお聞かせください。

 センチュリーが創設された同じ年に、私も豊中で生まれた、まさに同郷の同い年。深い縁を感じています。奏者もスタッフも皆さん温かく、練習場に行くと実家に帰ったような安心感があると同時に(実際に実家から自転車で通っていますが)、駆け出しの時から見守ってくださっている皆さんのためにもどうにか頑張らなきゃ!と恩返しをしたい思いでいつもいます。

 演奏はとても真摯、けれども緻密に積み上げた先に、本番ではリスクを取ってドライブする勇気と機動力もある、本当に素敵なオーケストラです。

撮影 飯島 隆 
指揮:出口大地、管弦楽:日本センチュリー交響楽団
2025年9月13日センチュリー豊中名曲シリーズVol.35「鳥」眠りながら飛ぶ より


—豊中市立文化芸術センターで指揮をされる際に、特に心掛けていることや意識していることはありますか。また、前シリーズで出演いただいたこの2年間でホールに対する印象に変化はありましたか。

 どのホールにも共通することですが、音響的な癖を理解し良好なバランスを取ること。そのあたりの感覚が出演を重ねるごとに解像度が上がってきたように思います。

 あとこの2年間の変化でいうと、ようやく楽屋まで迷わなくなりました。

—豊中市にお住まいだった頃の思い出や、印象に残っている景色・場所があれば教えてください。

 服部緑地や岡町商店街、ヴァイキングビル、バイトをしていたファミレスなどたくさんありますが、一番は阪急岡町駅から少し歩いたところにある大塚公園です。園内には整備された丘のような大きな古墳があり、その上でケイドロをしたりカードゲームをしたりゲームの通信対戦をしたり……。まるで秘密基地気分でした。大人になってから初めて気づきましたが、古墳の上で遊べる環境って珍しいというか、豊中特有の光景ですよね (笑)

—地元に帰られた際に、つい足を運びたくなるお気に入りのスポットはありますか。

 昨年閉店してしまいましたが、阪急曽根駅前のダイエーの6階、専門店街です。物心ついたときから今までいつ足を運んでも景色が全く変わらない、あの空間だけ時が止まったようなノスタルジックな雰囲気の場所でした。いつもブルーハワイ味のアイスクリームを食べている出口少年に出会える、そんな不思議なスポットです。

—本番前に必ず行うルーティーンや習慣があれば教えていただきたいです。

 昼寝。

—音楽に出会ったきっかけをお聞かせいただけますでしょうか。

 母が音楽好きで、クラシック音楽から昭和歌謡、ビートルズやクイーンまで、いつも家では音楽が流れていました。その中でも特にお気に入りの曲があったら、こっそりラジカセにダビングして部屋でも隠れて聴いていたのを覚えています。物心ついたときから自然と音楽に触れる環境にあったと思います。

 ちなみに今回演奏する『悲愴』もよく車の中で流れていたので、車酔いの記憶と結びついて、一時期は聴くだけで吐き気がするトラウマ曲でした。

—これまでの人生で出会った景色の中で、特に印象に残っていて忘れられない景色はありますか。

 一人で人里離れた秘湯に行くのが好きなのですが、あるとき東北の山奥で曇天の中たまたま見つけた、崖をつたっていった先に並べられた大量の地蔵と、その斜面に建てられた古びた神社。そして畏怖の念を感じ思わず振り返ると、空を覆っていた曇が突然パーッと開け、崖の上の一本松が神々しく輝き、それまで隠れていた山々の景色が一面に広がり……。見えざる力を感じながら、足早に宿に戻ったのを覚えています。

—現在、日本とベルリンの2拠点で活動されていますが、生活や音楽活動の中で文化や価値観の違いを感じることはありますか。

 たくさんありすぎてここではすべてをお話ししきれませんが、ベルリンはお客様の距離が近いなと思います。一つ印象に残っているのが、ロシア語のオペラの上演中に字幕が故障し、しばらく何も表示されなかったことがありました。もちろんドイツでもロシア語を理解できる人は多くないので皆チンプンカンプンのまま公演は進んでいきます。そして30分ほどたってようやくその字幕が復活すると、演奏中にも関わらずみんな拍手と大歓声(笑)

 なにか面白い音が聴こえれば演奏中でも客席から笑いがこぼれ、演奏が盛り上がればカーテンコールで指笛を鳴らす。そこには本能がままの反応と、結果として個々の本能同士の共鳴が生まれるのです。

 秩序を守れるのは日本人の美徳ですが(ドイツに住んでいればそれがいかに素晴らしいことか痛感します!)、たまにはそれぞれが自由に感じ、自由に生きた先に生まれる連帯感というのも素敵だなと思います。

—最後に、皆さまへメッセージをお願いいたします。

 生まれ育った豊中、そして前身の市民会館で成人式に参加した思い出の地である豊中文芸センターで、こうして指揮者として演奏できるなんて、なんて自分は幸せ者なんだろうと思います。今でも時々豊中を覇気のない顔でウロウロしていますので、見つけたら是非声をかけてみてください。その日一日良いことが起こるかもしれないし起こらないかもしれません。

 ぜひ今後とも、日本センチュリー交響楽団、豊中市立文化芸術センター、そしてたまに出口大地も、応援よろしくお願いいたします!

撮影 飯島 隆


2026年7月25日(土)開催
とよなかシンフォニックシリーズ〈交差するロマン〉輝きと陰影
イベント詳細ページhttps://www.toyonaka-hall.jp/event/event-48604/

公演・イベント一覧